月島にはお取引先様があり良く行きます。
月島は渋い美味しい店が多く好きな街の一つです。

特に中華料理は「S広」という店があり、そこの「上海焼ソバ」は大大好きです。
その店は公園のまえにあります。
去年公園の桜が葉桜の頃そのお店に行きました。
すると定休日でもないのにお店が休みです。
なにやらシャッターの上に張り紙が見えます。
「しばらくの間休業します」
どうしたんだろうと思いましたが、この時には長期化するとは思っていませんでした。

しばらくして、月島の居酒屋で飲んでいたら「S広」の話になり、どうやら調理をしていたご主人が脳梗塞で倒れたそうです。復帰は絶望のように聞こえました。

ここのご主人とても偉いのです。
この店はとても繁盛店なのですが、昼時に五十種類近くあるすべてのメニューとランチメニューを作るのでいつも注文が溢れかえる所謂ボトルネック状態となり待つこと夥しいのです。
当然の事ながら、たまには注文の順番違いが起きます。
すると麺の茹で方をやっている奥さんが般若顔で「何で順番間違えるのよ」とか「段取り分からないの」と聞くに堪えない怒声をご主人に浴びせます。
そしてお配りをやっている多分息子さんと思われるお兄さんが「俺はちゃんとオーダー通している」と腰の引けた言い訳をします。
その会話を聞く度に、君達文句は誰でもいえるさ、こういう忙しい時に協力し力を合わせて助けあうのが真の家族だろうおじさん一人が悪いのではない、君たちにも配慮という分担があるのだよと思う私がいたのでした。
しかしこの悪妻と阿保息子のなかで何も文句も言わず、美味しい料理を作るこのご主人はいつも偉いと思っていました。
まさに「男は黙ってサッポロビール」の世界の具現者です。

公園の枯葉が落ちたころ、店の張り紙に「早く良くなって!」、「オジサンの麻婆早く食べたい!」とか休業の張り紙の上に暖かい応援の寄せ書きが書き込まれるようになりました。

そして今年公園の桜の蕾が膨らみかけた頃、件の居酒屋での会話ではお店を再開するとの話が私の耳に飛び込んできました。

そしてGW頃かと思います、お店は「麺類」限定メニューで再開されました。
しかし私は完全復活するまで満を持して待っていたのですが、二週間ほど前その事を確認できました。
そして今日一年半ぶりに訪れたのです。
ご主人は顔色も良く、中華鍋のアオリも完璧です。
「完全復活おめでとう!ご主人」と心の中で祝福させていただきました。
もう一つ、般若奥さん看病疲れかですっかりゲッソリし、ご主人の調理している姿を慈しむように見ていたのが印象的でした。
阿保の息子さんは姿が見かけられませんしたが、私の想像では立派な跡取りになるようどこかで修行されているのではないかとお思いを馳せます。
特に死線を越えた、ご主人の顔には観照のようなものがうまれたように感じられました。

本当に良かったですね

ということで今回の獲物は「上海焼ソバ」です。


写真が今一です
私はここの麺の揚げ方がたまらなく好きです。時折「甘さ」すら感じます。
これが上の餡かけと絶妙に合うのです。
まさに今日、今ここに一年半ぶりの「口福」が口の中に蘇えったのです。

それでは(^_-)